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【東方感想文】『虹の麓が乾く頃』サークル:長久手小牧場 著者:長久手

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昨年の東方紅楼夢には足を運ぶことができなくて、
この文庫本にであったのはその翌週、大阪の某同人ショップでだったと思うのですが、
表紙を見た途端に引き込まれました。
ひそなさんの絵は当然に魅力的だし、このタイトル。
いやもう語彙が乏しくて申し訳ないですが、なんかめっちゃいい感じじゃないですか?笑
とにかく即断で購入したんですが、読み始めて1分で「なんかめっちゃいい感じ」から「これは素晴らしいぞ」に変わり、読後には暫く放心して飲んでいたコーヒーが冷めてしまうくらいに余韻に浸ることができました。
と 「良い良い」とばかり書いていても感想文にならないので、ここから中身について述べていきたいと思います。

まず導入、雰囲気を感じてもらうために第一段落だけ抜粋します。


 この頃はずいぶん時間をかけて森を散策するようになった。微かな予感を孕む湿った朝の空気や、足を通して伝わってくる夜露でわずかに膨らんだ土と草の感触、葉の間を潜り抜けてくる陽光の勾配、季節の外周を時折不安になるほどの確かさで駆け抜ける植物たち。それらの日ごとの微妙でありながら着実な推移がまったく意外なほどに興味深く感じられるのだ。


雰囲気を知ってもらうために、と書きましたが、この作品において常に感じ取ることができるものがこの、一人称の視点がもつ落ち着き成熟した雰囲気です。
読み進めていけばわかりますが、この後6頁に渡る冒頭部の時系列は主部の時系列より後の時点であり、主部よりも円熟した雰囲気をもっています。言葉の運び方や修飾によって、そういった雰囲気の微妙な差異を生み出すことに成功していると感じました。
更にいうと、同じ時系列内であっても心情の機微に沿って表現を絶妙に加減していて、優れた文章とはこういうものなんだな、と感じさせてくれます。
一例を挙げるなら、魔理沙がアリスに己の進退に関して心情を吐露する部分、初めは魔理沙による長々とした台詞が続き、いよいよ本題を口に出してしまうと、続けてアリスが「だんだん腹が立ってき」て、魔理沙に対して軽く脅しつけるように否定的な言葉を続けます。この間、修飾の多かった地の文は大幅に削られ話し言葉の応酬になりますが、その緩急や言葉の選択によってアリスと魔理沙の感情のアップダウンが手に取るようにわかるはずです。


さて、ここでこの小説のあらすじを述べると、(ネタバレ反転)

夏、上海人形が自律するが、アリスにはその契機がわからない。
20歳になった魔理沙はアリスの元を訪れると、このまま人間として歳を重ねる事、或いは人間をやめる事への懊悩を伝える。
アリスは紅魔館を訪ねる。上海を気に入ったレミリアに1週間の滞在を求められ、承諾する。
紅魔館の人たちとの交流のなか、フランドールの読書家としての一面を知る。
再び紅魔館を訪れたアリスは、大図書館の奥からナップザックを背負って現れたフランドールに呆れながらも感心する。
その後森に戻ったアリスを待っていたのは魔理沙からの手紙だった。
魔理沙は八雲紫の手引きでブカレストに居るという。
驚きのさなか現れた紫に従い、アリスと上海もまた結界を越える。
懐かしくも様変わりしたブカレストの街を、姉妹のようにして過ごすアリスと魔理沙、紫。
アリスはその日々のなか、紫と2人立ち寄ったバーで彼女の内面に触れる。
そして夏の終わり、魔理沙は捨虫を修得し、種族:魔法使いとなった。4人は幻想郷へ戻った。
紫は新しい魔法使いを迎え入れ、魔理沙は霊夢の赦しを受け、
アリスはナップザックを背負って、上海と共に大図書館の奥へと旅立つのだった。

要約って難しいですね^^;
この小説はとりわけ難しい気がします。何故なら、メインテーマと思しき上海の自律問題は解決しないまま、終わりを迎えてしまうからです。推理小説や冒険小説のように、物事は解決に向けて一直線には進もうとしません。
代わりに動くのはひとつがアリスをはじめとした登場人物たちの細やかな心情。もう一つが、魔理沙の問題です。

ここでとても重要な役割をもった、魔理沙の存在について考えていきたいと思います。
魔理沙は主題の「上海の自律」について全くのアウトサイダーですが、彼女自身はとても大きな問題を抱えています。
つまるところ、鈴奈庵易者回のアレです。
この小説において魔理沙は件の霊夢の信条を知っています。それ故に、20歳という人生の区切りにあってその深い懊悩をアリスにさらけ出してしまうのですが、
メタ的にいうと、この魔理沙の悩みこそがこの小説のエンジンに他なりません。
度々登場人物の口から伝えられる「時間の無さ」によって、本来の主題の停滞を脇に置いてストーリーの進行を担っているのはまさしく魔理沙です。
これは魔理沙が人間であり、アリスや上海、或いは紫が無限に近い時間をもつ妖怪の類である事実と大いに関係している筈です。
つまり本来の主人公であるアリスがゆっくりした存在であるがために、そこには我々人間が読書に耐えうる推進力が存在していないということです。
そのほかにも、魔理沙は幾つかの役割を担っているように思いました。
彼女の時間の無さとアリスらの無限に近い時間との対比によって、本来の主題の解決に至る道程の長さを暗示するのが一つ、
紫の関与を引き出すという形で、彼女にとっての主題とその為の行動を明示するのが一つです。

という事で、続いて紫の存在について考えます。
この小説の主題は「自律」ということだと思います。
それはアリスにとっては上海や人形全体の自律ですが、紫にとっては幻想郷の自律を指しています。
直截そういう発言があったわけではないですが、終盤のバーでのアリスとの問答はそのように解していいでしょう。
では、何故紫はそれを目指しているのか。
ふつう紫という存在はややこしくて胡散臭く描かれるものですが、この小説の紫には明確な(それでも小出しですが)人間味があります。
そしてその人間味の正体は、どうやら父性とでも呼ぶべきもののように感じました。何に対する父性かといえば、勿論幻想郷に対してです。
先ほどの疑問の答えは、つまりその父性(ひいては人間性)が、彼女の行動原理に色濃く影響を与えているということです。
【更にいうと、紫は、父性とうまく分けることが出来ないままに(或いは敢えて混同して)元来的に母性をもっていて、各々の対象に向けてそれを注いでいるのかもしれません。魔理沙に手を貸した紫の行動は、どちらかといえば母性的原理に基づいていると思います。】
妖怪の代表格・八雲紫に、人間性を見出す。挑戦的な試みですが、著者の巧みな構成によって、それは成功しているように思いました。

さて、こうして紫の謎が解けるとともに、我々はアリスの中にも燻る人間性に気づかないわけにはいかないでしょう。
この小説において紫は、そのままアリスに重なっているからです。
人形の自律をライフワークにしてきたアリスは、気づかぬうちに上海人形にとりわけ深い母性的愛情を抱えていました。
そうしたなかで、いよいよ上海が自律してしまい、途方に暮れているのが最初でした。
(第二章から第四章にかけては、紅魔館の人たちとの交流を通してアリスの母性がほのめかされました。)
そして第六章、物語の大詰めで、紫との問答があります。
その問答の中でアリスは紫の中の人間性に気づき、途端に親近感を得たので、自分自身の人間性には気づいているようです。
このような人間性(母性・父性的愛情)と、自律には関わりがあるのか? これについては最後まで明示されなかったので、著者は読者に判断を委ねたものと思われます。
強い感情が魔力的価値をもつというのは、いささか陳腐ですが、この小説を読み終える段になれば、そうあってほしいと願わずにはいられないというのが僕個人の感想です。

物語の最後は、これから続くアリスや上海、魔理沙の永い探求の時間を感じさせながらも、
パチュリーのあきれ顔と共に、それは軽妙で優しい空間を流れていくことを予感させるものでした。

アリスと上海の未来に幸あれ、紫と幻想郷の未来に幸あれと、
冷めたコーヒーを片手に本を閉じました。


P.S. 紅楼夢12では「夜の歌」が頒布されました。まだ読了はしていませんが、こちらも素晴らしい作品ですのでぜひお手にとってみてください。




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テーマ : 東方プロジェクト
ジャンル : ゲーム

東方紅楼夢12に一般参加しました

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紅楼夢お疲れ様でした。
今回はじめて友人と連れ立っての参加でした。
田舎で9時に待ち合わせして車と電車で移動、会場に着いたのが11時半過ぎということで、
広場はこのとおり閑散としておりましたw

以下、戦果報告。

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小説(文庫)。
今回の目的のひとつ、長久手小牧場さんの「夜の歌」を筆頭に諸々。

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小説(大判)、その他文章系。
来年あたり岐阜か熊野旅行したい。
あと何気に楽しみにしてた出藍文庫さんの「東方文様讀本」など。

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漫画、イラスト集等。
最大の目的はスアリテスミさんの「機械の空にXXXを」「第百三十二季暦表」。
あと易者合同は買わないわけにはいかなかった。

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音楽CD、その他。
今回からTUMENECOさんを買ってみることにしました。
穣子ポスターがお気に入り。
3イベント連動企画のクリアポスターはGETしたものの、秋季例大祭には行けません。無念。

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帰宅後にビール。翌日予定があって打ち上げなどはできず。
次回は10月30日、京都に参加予定。
それまでに感想文1、2個上げます。
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鈴屋弥平

Author:鈴屋弥平
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pixivに投稿した絵の評価がやっと100点に乗った程度の画力
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